― 日本人の不動産観の変遷とこれから
「不動産は持っていて当たり前」
「土地は永遠に値上がりする」
「借家では一人前とは言えない」
これらは、かつて日本人の多くが信じて疑わなかった“常識”でした。
いわゆる「土地神話」。
戦後の高度成長期からバブル期にかけて、日本の不動産は**経済的・精神的な“資産の象徴”**でした。
しかし、2025年現在、その価値観は大きく変わりつつあります。
今回は、日本人の不動産観の変遷を歴史的に振り返りながら、これからの時代に求められる新しい視点を考察します。
■ 「土地こそが資産」という信仰 ― 昭和の“土地神話”
日本における不動産信仰の原点は、戦後復興と高度成長期にあります。
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地価は右肩上がり
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都市への人口集中で住宅不足
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借地借家法による借主保護(貸すより買う方が有利)
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金融機関の融資も「不動産担保が絶対」
この時代の常識は、「不動産=安定資産=家族の将来のため」という構図。
特にサラリーマン家庭におけるマイホーム信仰は、“人生最大の買い物”という文化として根付きました。
■ バブル崩壊がもたらした「神話の終焉」
1991年のバブル崩壊は、日本の不動産観に初めての挫折体験をもたらしました。
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地価の急落
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借金を抱えたまま資産価値が半減
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“家を買えば安心”は幻想だったという現実
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銀行も「土地神話」に踊らされた格好に
それでも、“家を持つべき”という価値観は根強く残りました。
とくに団塊世代は、「マイホームがあってこそ一人前」「家を持たないと将来が不安」と信じ続けたのです。
■ 令和の変化 ― 若者世代の「合理的マインド」
2000年代以降、若年層を中心に不動産観が大きく変化しています。
✅ 価値観の変化
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**「所有=重荷」**という意識
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ライフスタイルの多様化(転職・転勤・副業・移住)
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都心の住宅価格高騰で「買いたくても買えない」
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民泊、シェアハウス、二拠点生活…新たな住まい方の台頭
✅ 経済環境の影響
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給与の伸び悩みと物価上昇
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将来不安(年金・雇用)から長期ローンへの慎重姿勢
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不動産は“資産”というより“コスト”として捉えられる傾向
■ 今、改めて問われる「不動産の価値」とは?
▶ 資産性の再定義
かつてのような「持っていれば勝手に値上がり」は過去の話。
代わりに、収益性・活用性・流動性といった“動く資産”としての視点が重要になっています。
▶ 居住性と豊かさ
「不動産=儲けるもの」ではなく、「自分らしい暮らしをつくる基盤」としての価値が見直されています。
立地より“快適さ”、築年数より“空間の質”を重視する層も増加中。
▶ 所有か、利用か
近年は「借りる/シェアする/運用する」という柔軟なスタイルが注目されており、「買わないこと」も選択肢の一つに。
所有と非所有の間に、新たな選択肢が生まれています。
■ まとめ:「不動産=所有」の時代は終わった?
昭和〜平成初期にかけて信じられてきた「土地神話」は、いまや**アップデートが必要な“過去の価値観”**となりました。
令和の日本では、「家を持つべきか?」ではなく、「どう住まい、どう活かすか?」が問われています。
不動産はもはや“静的な財産”ではありません。
住む、貸す、売る、動かす――ライフスタイルと価値観に合わせて“変化できる資産”へと進化しています。
いまこそ、固定観念を手放し、“自分にとっての不動産の意味”を問い直す時代なのです。