コロナ禍をきっかけに、都市圏を離れて地方に移住する動きが注目されました。テレワークの普及により「どこでも仕事ができる時代」が現実味を帯び、空気や自然、広い住環境を求めて地方へと生活拠点を移す人々が増えたのです。
しかし、移住支援制度や補助金、メディアの盛り上がりの裏側で、「定住率の低さ」や「不動産価値の維持」という現実的な課題も浮き彫りになっています。
本コラムでは、地方移住ブームの実態を冷静に見つめながら、不動産的視点からそのリスクと可能性を読み解きます。
■ 地方移住は本当に増えたのか?
実際に、総務省が発表した住民基本台帳人口移動報告では、
2021年は東京圏から地方圏への転出超過が確認され、特に長野県、静岡県、山梨県、福岡県などが移住先として人気を集めました。
多くの自治体では、以下のような支援策を打ち出しました:
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空き家改修・購入に対する補助金(最大200万円以上)
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子育て世帯への引越し支援
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就農・起業支援金
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地方創生テレワーク交付金
一見すると、移住は「得」に思えます。
しかし、ブームのその後には、ある問題が浮かび上がります。
■ 定住率の低さという“現実”
一般社団法人移住・交流推進機構(JOIN)の調査などによると、
地方移住者のうち約3~4割が5年以内に再び転出しているという報告もあります。
なぜ定住しづらいのか?
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仕事がない/合わない
→ テレワーク可といっても、出社が必要になる企業も増加。地域の職種は限定的。 -
地域コミュニティになじめない
→ 特に子育て世代や単身世帯は、閉鎖的な地域社会に馴染めないことが多い。 -
医療・教育・買い物インフラの不満
→ 病院や大型商業施設が遠く、“生活の利便性”のギャップが強い。 -
空き家の老朽化・維持コストの負担
→ 安く手に入れたはずの物件が、後々高額な修繕費を要するケースも
地方移住は「新しい暮らし」ではあるが、「楽な暮らし」とは限らない――
ということが定住率の低さに表れています。
■ 不動産価値の視点:購入は得か、それとも負担か?
地方移住にあたり、空き家を購入してリノベーションするケースが多く見られます。
しかし、その物件の**「資産価値」**はどうでしょうか?
◎ 地方不動産の価値の落とし穴
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流動性が極端に低い(売ろうと思っても売れない)
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人口減少エリアでは長期的な値下がりが前提
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賃貸需要がないため収益化が難しい
地方の空き家は、「使うための不動産」であり、「売れる不動産」とは限らないのです。
たとえ100万円で買えても、それが価値ある買い物だったかは、売却時や相続時に問われます。
■ それでも地方移住に可能性はあるのか?
もちろん、すべての地方移住がリスクに満ちているわけではありません。
以下の条件を満たせば、地方でも「価値ある暮らし」や「安定した不動産取得」は可能です。
【成功しやすい地方移住のポイント】
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通勤可能な地方中核都市(例:福岡市、浜松市、松山市)
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観光地やセカンドハウス需要のあるエリア(軽井沢、湯布院など)
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地域と積極的に関わる意思とスキルを持っている
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空き家を資産ではなく「消耗品」として割り切れる
また、“お試し移住”(短期滞在型体験)やリースバック移住(借りて住んでから購入)など、新しい選択肢も増えてきています。
■ まとめ:移住は「夢」ではなく「設計」だ
地方移住は、人生の転換点にもなりうる大きな選択です。
ですが、定住の難しさや不動産としての資産性を軽視したまま踏み出すと、思わぬ“後悔”につながります。
「田舎でのびのび暮らしたい」
「子育て環境を変えたい」
「生活コストを抑えたい」
こうした動機は大切ですが、同時に「どこまで資産として成り立つか?」という経済合理性の視点も忘れてはいけません。
住みたい町は、住み続けられる町か?
この問いに、納得のいく答えが出たときが、地方移住の“本当のスタート地点”です。