かつては“安定収入の象徴”とされた賃貸経営。しかし今、その裏側で静かに増えているのが、「管理難民」と呼ばれる高齢大家たちです。物件を持っているが、年齢的・身体的な問題で適切に管理できず、トラブルが頻発したり、収益が悪化していたりする――。こうした現実が、今や全国で広がっています。
今回は、高齢化社会と不動産管理の現状、そして新しく登場する管理スキームについて解説していきます。
■ 「管理難民」とは?
「管理難民」とは、自身が所有する不動産の管理・運営を適切に行えなくなった賃貸オーナーのことを指します。特に、地方や郊外に複数の物件を保有してきた高齢者が中心です。
【管理難民が生まれる背景】
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高齢化(70〜80代のオーナーが急増)
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後継者不足(子世代が不動産に関心なし)
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管理会社との契約切れ・解約
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信頼できる管理業者が近隣に存在しない
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修繕や更新判断が難しい
不動産という「動産ではない資産」は、持っているだけで価値を保てるものではありません。維持管理が伴って初めて“資産”たりえるのです。
■ 増える問題事例
全国の賃貸物件で、管理不全による問題は深刻化しています。
【よくあるトラブル】
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入居者からの苦情対応が放置される
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建物の老朽化に気づかず放置(雨漏り・漏水・崩落事故)
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空室率が上がってもテコ入れできない
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適切な賃料改定や更新交渉がされない
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敷金清算・退去処理ミスによる訴訟
所有者が対応できないまま放置されることで、収益物件が“負債物件”に転じてしまうリスクが高まっています。
■ 高齢大家のリアルな悩み
多くの高齢オーナーが抱えるのは、こうした「管理業務の実務負担」と「信頼できる後継や業者の不在」です。
【声として多いもの】
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「管理会社が信用できず何度も変更して疲れた」
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「誰かに任せたいが、どこに頼めばいいかわからない」
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「息子に継がせる気はないと言われた」
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「設備更新費用の相談もできず一人で悩んでいる」
これは単なる不動産の話ではなく、高齢者の生活問題・資産管理問題の延長線上にある社会課題です。
■ 新しい「管理スキーム」とは?
こうした背景を受け、近年は従来の“管理会社任せ”ではない、新しい管理モデルが登場しています。
① 地域密着型の「包括管理サービス」
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空室対策、修繕手配、入居者対応、家賃管理などを一括代行
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高齢オーナー向けのライフサポート込みのプランも登場
② 「信託スキーム」による資産管理
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賃貸不動産を信託契約により専門法人に預ける
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収益は所有者に還元、管理・運営は専門家が代行
→ 高齢者の“認知症リスク”にも備えられる仕組みとして注目
③ サブリースを活用した“完全委託型”
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オーナーは物件を貸し出すだけで、空室リスクも含めて業者が一括借り上げ
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手間はかからないが、利回りは低下しやすい
→ 「手放さずに管理を任せたい」ニーズに合致
④ 「資産承継コンサル」との連携
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相続・贈与を含めた包括的な相談窓口
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不動産の処分 or 継承の方向性をプロと一緒に検討
■ 今後の不動産管理のあり方
高齢化社会が進む中で、今後の不動産管理は**「所有者本人に依存しない体制」**が求められます。
【未来に向けた3つの視点】
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「管理のプロ」と「資産のプロ」を分けて考える
→ 修繕や空室対策は管理会社、承継は士業やコンサルに。 -
「信頼できる第三者に早期に任せる」判断力
→ いざというときでは遅い。“任せる”勇気も必要。 -
「家族との共有」を当たり前に
→ 継がせる気がなくても、「今の状況」は家族に共有しておくべき。
■ まとめ:資産を守るには、まず“任せる力”を
不動産は持っているだけでは資産ではありません。運営し、守り、活かすことではじめて価値を生みます。
「自分で管理できない」と感じた時こそ、新しい管理スキームの出番です。
任せるべき人に、正しく任せられる体制を整えること。それが、資産の延命と家族の安心につながります。
高齢オーナーの悩みが「孤独な闘い」にならないために。
私たち業界側も、柔軟で多層的なサポートのあり方を今こそ問われているのです。