――「所有」から「共用」へ、住まいはどう変わるのか?
かつて、マイホームは「人生最大の買い物」とされてきました。土地を買い、家を建て、そこに家族と暮らすというのが“幸せの象徴”とされた時代。しかし今、その価値観は静かに、しかし着実に変化しています。
変化を牽引するのが、「シェアリングエコノミー」です。モノや場所、スキルや時間を“所有”ではなく“共有”するこの新たな経済概念が、住まいそのもののあり方にまで影響を及ぼし始めています。
■ なぜ「所有しない住まい」が広がっているのか?
まず注目したいのが、若年層を中心とするライフスタイルの変化です。
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転職・移動の多様化
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モノを持たないミニマル志向
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住宅ローンという長期縛りへの抵抗感
こうした背景から、「ずっと同じ場所に住む」よりも、「その時の自分に合った場所に柔軟に住み替える」スタイルが支持を集めています。そこに登場したのが、住まいのシェアリングサービスです。
■ 注目される住まいのシェア形態
◎ シェアハウス
20代〜30代を中心に定着した「共同生活」。キッチンやリビングを共有しながら、個室でプライバシーも確保。家賃の安さだけでなく、コミュニティとの接点を求めるライフスタイルの象徴にもなっています。
◎ ホテルのような定額住み放題
最近では、ADDressやHafHなど「月額定額で全国の住まいを転々とできる」サービスも台頭。旅と暮らしの境界が曖昧になりつつある今、住まいは“動的”なものとして再定義されつつあります。
◎ 空き家・民泊の短期利用
かつては「使われない家」だった地方の空き家が、今では訪日外国人や移住体験者の一時的な住まいとして活用されるようになっています。所有者も副収入を得られ、地域経済への貢献にもつながります。
■ 不動産業界に求められる対応と変革
この潮流は、不動産業界にも大きなインパクトをもたらしています。
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「売る」から「貸す」へのシフト:分譲市場だけでなく、短中期利用に対応した物件開発が求められる時代に。
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管理業務の複雑化:複数人で利用する物件では、トラブル防止のためのルール整備やIoTを活用した遠隔管理が
カギに。 -
コミュニティの創出支援:入居者同士の関係構築を支援する“運営力”が、物件の魅力を左右する要素に。
特に都市部では、コワーキング併設型の賃貸住宅や、共用設備が充実した集合住宅など、従来とは異なる価値観を持つ物件が登場し始めています。
■ 「住む場所」から「生きる場」へ
これからの住まいは、単なる“箱”ではなく、生き方や価値観を映す「場」として存在するようになるでしょう。
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自由に移動できる「旅する住まい」
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他人とつながれる「共感の住まい」
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趣味や仕事を共有する「目的のある住まい」
その背景にあるのは、住宅ローンや固定資産税といった「所有の重さ」から自由になりたいという欲求、そして人生100年時代を柔軟に生き抜くための選択肢の多様化です。
■ まとめ:これからの住まい選びは「機能」より「意味」
シェアリングエコノミーが不動産に与える影響は、“建物”そのものよりも、そこに住む人の考え方を変えることに本質があります。
物件を選ぶ基準が「広さ」「駅近」から、「どんな人と住むか」「何ができるか」に移行しているのです。
不動産業界にとって、もはや「所有の前提」で語るビジネスモデルは限界を迎えつつあります。
これからの時代、“使い方”に寄り添う視点こそが、不動産に新しい価値を与える鍵となるでしょう。