― “立地神話”から“安全神話”へ。不動産の価値観は変わった
かつて不動産の価値は「駅近・都心・利便性」が絶対的な指標とされてきました。しかし近年、地震・水害・台風といった自然災害の激甚化が進む中で、「災害に強い街かどうか」が資産価値を左右する新しい評価軸として注目されています。
本稿では、災害リスクと不動産評価の関係、そして“強い街”がどう築かれているのかに迫ります。
■ 災害リスクは「個人の問題」ではなくなった
東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、令和元年東日本台風(2019年)――。いずれも都市部を直撃した大災害は、不動産購入や投資において「安全性」という視点の必要性を浮き彫りにしました。
これに加え、近年では自治体が公表するハザードマップや、民間企業による災害リスク評価ツール(例:地盤サポートマップ、リスク対策.comなど)が普及。購入希望者も、「物件のリスクを調べてから検討する」という時代に入りつつあります。
■ 立地重視から「防災重視」の不動産選びへ
◎ 地盤・浸水・土砂災害が価格に影響を与える時代
近年、同じ沿線でも「ハザードマップで色がつくエリア」と「白地のエリア」で地価や賃料に明確な差が出ているケースが増えています。
特にファミリー層や投資家は、「避けられるリスクは避けたい」という意識が高まりつつあります。
例:東京都世田谷区の一部地域では、浸水想定エリア外のマンションが1割以上高値で取引される傾向も。
■ 「災害に強い街」とは?5つの共通項
① 高台や安定した地盤に位置している
過去の液状化や地盤沈下などの履歴が少なく、自然災害の影響を受けにくい地形特性を持つ地域は、長期的に資産価値が下がりにくい。
② インフラの強化がされている
地中化された電線、強化された下水道、堤防の改修、緊急避難道路の整備など、自治体のインフラ投資が積極的に行われているエリアは災害後の復旧力も高い。
③ 自治体の防災意識が高い
地域の防災訓練、独自の避難アプリ、災害時の地域連携など、“ソフト面”の備えが強い自治体は注目株です。
④ マンションや戸建ての防災性能が高い
免震構造・耐水扉・非常用発電機・非常食備蓄など、防災機能を売りにした新築物件が人気。特に都市部では、「防災マンション」がブランド化しつつあります。
⑤ 災害後の回復が早い
被災後の地価回復や居住再開スピードが早い地域には「回復力=レジリエンス」があり、投資先としての安心感が増します。
■ 不動産の「新しい評価軸」はこう変わる
従来の指標 | これからの指標 |
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駅距離(徒歩○分) | ハザードマップでの安全性 |
築年数 | 建物の耐震・免震性能 |
専有面積・間取り | 非常用備蓄スペースの有無 |
賃料利回り | 自然災害リスクを加味した収益性 |
再開発の進捗 | 地域の災害復旧計画・レジリエンス |
つまり、「生活の便利さ」だけでなく、「非常時に命を守れるか」という安全性も、不動産評価に織り込まれるようになってきているのです。
■ 投資家・購入者が今すぐできる対策は?
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購入前にハザードマップを必ず確認
→ 地震、浸水、液状化、土砂災害の4点をチェック -
地域の災害履歴・インフラ整備状況を調査
→ 市区町村の防災計画・整備事業を調べる -
物件の構造・備えを評価項目に入れる
→ 免震・耐震だけでなく、停電時の対応力や避難経路も重要 -
災害リスクを織り込んだ保険設計
→ 火災保険・地震保険の内容も見直すべきタイミングです
■ まとめ:災害時代の不動産は“安全性”がプレミアムになる
もはや自然災害は「100年に一度」ではなく「10年に数度」起こる現実です。不動産の価値は、快適さや立地だけでは測れない時代に入っています。
「災害に強い街」は、人が集まり続け、資産価値が落ちにくい街でもあります。
これからの時代、不動産を選ぶ際には、「災害時の未来を想像する力」が必要不可欠です。
“強い街”にこそ、人が集まり、投資が集まる――
これが、新しい不動産価値のかたちです。