COLUMN2026.09.03

【世界の不動産事情・第4回】

【世界の不動産事情・第4回】

イングランド・ウェールズのリースホールド制度と改革の現在地

海外の不動産広告で、ロンドンのフラットが「販売中」と表示されているのを見れば、日本の分譲マンションと同じように、住戸を期限なく所有できると考えるかもしれません。

しかし、イングランドとウェールズのフラットでは、**リースホールド(leasehold)**という権利形態が広く使われています。

リースホールドの購入者が取得するのは、土地や建物全体の完全な所有権ではなく、契約で定められた期間に限って住戸を保有する法的権利です。期間が満了すると、原則として権利は地主・家主に当たるフリーホルダーへ戻ります。英国政府も、リースホールドについて「固定期間に限って所有する権利」であり、フラットの多くがこの形態であると説明しています。

なお、英国は地域によって不動産法制が異なります。本稿では、現在進められている改革の対象であるイングランドとウェールズに限定して解説します。

1.リースホールドは、一般的な賃貸借とは異なる

リースホールドを日本語で単に「賃借権」と訳すと、一般的な賃貸住宅と混同しやすくなります。

通常の賃貸住宅では、入居者は毎月の賃料を支払い、一定期間建物を使用します。一方、長期のリースホールドは市場で売買される住宅権利であり、購入者は相応の売買代金を支払って取得します。

ただし、取得するのはフリーホールド、すなわち土地・建物を期限なく保有する権利ではありません。取得するのは、リース契約に定められた残存期間の権利です。

例えば、当初125年のリースが設定され、すでに30年が経過している場合、次の買主が取得するのは原則として残り95年の権利です。売買によって期間が当初の年数へ戻るわけではありません。

そのため、英国の不動産を検討する際には、「購入価格」だけでなく、残存期間を含む、どのような権利を購入するのかを確認する必要があります。

2.イングランドの住宅の約5戸に1戸がリースホールド

リースホールドは一部の特殊な物件だけに使われている制度ではありません。

英国政府の推計によると、2024年度から2025年度におけるイングランドのリースホールド住宅は約490万戸で、住宅ストック全体の20%を占めます。このうち約338万戸がフラット、約152万戸が戸建住宅でした。

ロンドンでは、住宅全体に占めるリースホールドの割合が39%に達しています。また、リースホールド住宅の56%は自己居住用、39%は民間所有者が賃貸運用する住宅です。

つまり、英国の都市型住宅市場、特にロンドンのフラット市場を理解するには、リースホールド制度の理解が欠かせません。

3.購入後も「グラウンドレント」と「サービスチャージ」が発生する

リースホールドでは、購入価格とは別に、主として二種類の費用を確認する必要があります。

グラウンドレント

グラウンドレントは、リース契約に基づいてフリーホルダーへ支払う金銭です。サービスの対価とは限らず、英国政府も、フリーホルダーが何らかのサービスを提供する義務を負わない支払いであると説明しています。

2022年6月30日以降に新たに設定された一定のリースでは、グラウンドレントは原則として金銭的価値のない「ペッパーコーン」に制限されています。ただし、同日以前に設定された既存のリースを購入した場合は、契約にグラウンドレントが定められていれば、購入後も支払いが続くことがあります。

したがって、現在の年間額だけではなく、契約に増額条項があるか、何年ごとにどのように改定されるかを確認する必要があります。

サービスチャージ

サービスチャージは、共用部分の維持管理、修繕、清掃、建物保険、エレベーターその他の共用設備などに充てられる費用です。

何を請求できるか、どのように負担を配分するかは、基本的にリース契約で定められます。リースホルダーには、費用の計算方法や使途の明細、領収書等の裏付け資料を求める権利があります。大規模修繕等に備えるため、積立基金への拠出が必要となる物件もあります。

グラウンドレントとサービスチャージは性質が異なります。物件を比較する際には、両者を混同せず、将来の増額可能性を含めて確認することが重要です。

4.残存期間が短くなると、資産価値や売却可能性に影響する

リースホールドの期間は、時間の経過とともに減少します。

英国政府の2024年度から2025年度の統計では、調査対象となったリースの約10%が、残存期間80年以下でした。自己居住世帯に限ると、約24万6,000世帯が残存期間80年未満の住宅に住んでいると推計されています。

現行制度では、残存期間が80年以下になると、リース延長に必要な費用が大幅に増加する場合があります。2026年7月時点で、一定の要件を満たすフラットのリースホルダーは90年、戸建住宅では50年の法定延長を求められる制度となっています。

残存期間が短い物件は、単に使用できる期間が短いだけではありません。

融資を利用できる買主が限られれば、売却市場も狭くなります。延長費用が高額になれば、買主はその費用を購入価格から差し引いて判断する可能性があります。

したがって、リースホールドの価格は、立地、面積、建物の状態だけではなく、残存期間と延長費用を含めて評価する必要があるのです。

5.2024年の改革法は成立したが、すべてが利用可能になったわけではない

イングランドとウェールズでは、リースホールド制度を見直すため、2024年に「Leasehold and Freehold Reform Act 2024」が成立しました。

同法には、リース延長期間を原則990年とする制度、新しい評価方法、残存期間80年以下の延長費用に影響するマリッジバリューの廃止などが盛り込まれています。

ただし、法律に規定されたことと、すでに実務で利用できることは同じではありません。

2025年1月31日には、法定のリース延長やフリーホールド取得を請求するために、物件を2年間所有しなければならなかった要件が撤廃されました。また、同年3月には一部のRight to Manage関連改革が施行されています。

一方、990年への延長、新しい価格算定方法、マリッジバリュー廃止などの主要部分は、2026年7月25日時点で全面的に施行されていません。

英国政府は2026年7月15日、新制度には修正すべき技術上の問題が残っており、今後の法案で修正したうえで施行する方針を示しました。同時に、延長費用の計算に使用する利率等について、技術的な意見募集を開始しています。

したがって、物件を購入する際に「将来、制度が変われば安く延長できるはず」と仮定して価格を判断するのは適切ではありません。原則として、契約時点で施行されている法律と現行の費用負担を基準に判断する必要があります。

6.管理費を負担する人と、管理を決める人が一致しない

従来のリースホールド制度では、建物の管理や支出に関する主要な判断を、フリーホルダーまたはその管理会社が行うことがあります。一方、実際の費用はサービスチャージとしてリースホルダーが負担します。

もちろん、共用部分の維持管理、建物保険、大規模修繕には費用が必要です。サービスチャージが存在すること自体が問題なのではありません。

問題となり得るのは、費用を支払う所有者と、業者選定や管理方針を決める主体が分かれていることです。

リースホルダーには、請求内容の開示を求めたり、合理性に疑問がある費用を審判所で争ったりする権利があります。また、一定の要件を満たせば、建物管理を引き継ぐRight to Manage制度を利用できる場合もあります。

それでも、英国法委員会は、現行のリースホールドでは家主側が建物の管理と費用について重要な判断を行う構造が残っていると指摘しています。

7.リースホールドに代わる「コモンホールド」

リースホールドの代替制度として、イングランドとウェールズでは2002年に**コモンホールド(commonhold)**が導入されました。

コモンホールドでは、各住戸の所有者が自らの住戸を期限のないフリーホールドとして所有し、共用部分は住戸所有者で構成されるコモンホールド協会が管理します。リースホールドのように、所有期間が年々短くなる構造ではありません。

日本の区分所有権は、専有部分の所有権に、共用部分の共有持分や敷地利用権が伴う制度です。そのため、法制度は同一ではないものの、コモンホールドは従来の英国リースホールドより、日本の分譲マンションに近い考え方といえます。

ところが、2002年の制度導入後に設定されたコモンホールドは、20件未満にとどまっています。英国法委員会は、現行制度上の問題を検証し、コモンホールドの利用を拡大する改革を提言してきました。

8.2026年の改革案は「新築フラットをコモンホールドへ」移行させる

英国政府は2026年1月27日、「Commonhold and Leasehold Reform Bill」の草案を公表しました。

草案には、主として次の改革が盛り込まれています。

新築フラットの大部分について、リースホールドによる販売を禁止する コモンホールドを新築フラットの標準的な権利形態とする 既存建物をコモンホールドへ転換しやすくする 既存リースのグラウンドレントを年間250ポンドで上限設定し、40年後にペッパーコーンとする 軽微な契約違反等を理由に住戸の権利を失わせるフォーフィーチャー制度を廃止し、より比例的な執行制度へ変更する

ただし、これらは2026年7月25日時点では、最終的に成立・施行した法律ではありません。

草案は議会委員会による事前審査を受け、2026年5月27日に報告書が公表されました。政府は2026年から2027年の議会会期中に最終法案を提出する方針ですが、最終的な条文、例外、施行時期は今後の立法手続によって変わる可能性があります。

このため、「英国では新築リースホールドがすでに全面禁止された」「既存のグラウンドレントはすでに250ポンド以下になった」と説明するのは、現時点では正確ではありません。

9.英国のリースホールド物件で確認すべき項目

英国のフラットを購入する場合、「所有権付き物件」という日本的な感覚だけで判断してはいけません。

最低限確認すべきなのは、次の事項です。

権利がフリーホールド、リースホールド、コモンホールドのいずれか リースの残存期間 グラウンドレントの現在額と増額条件 サービスチャージの直近実績 大規模修繕の予定と積立基金 建物保険の内容 リース延長に必要となる概算費用 フリーホルダーと管理会社の関係 管理費や修繕に関する過去の紛争 将来の法改正を前提にしなくても成立する投資か

特に重要なのは、購入価格の安さを残存期間や将来負担と切り離して考えないことです。

まとめ

イングランドとウェールズのリースホールドは、一般的な賃貸住宅とは異なり、市場で売買される正式な不動産権利です。

しかし、購入者が取得するのは、土地・建物全体の期限のない所有権ではありません。契約で定められた期間の権利であり、その期間は時間とともに減少します。

さらに、グラウンドレント、サービスチャージ、リース延長費用、管理権限など、日本の分譲マンションとは異なる確認事項があります。

英国では、コモンホールドを標準的な制度にする方向で大規模な改革が進められています。しかし2026年7月25日時点では、現行のリースホールド制度と、施行済みの改革、成立済みだが未施行の制度、審議前の草案が併存しています。

英国不動産を評価する際に重要なのは、「制度が将来どう変わるか」だけではありません。

現在、どの権利を、何年間、どの費用負担と管理条件で取得するのか。

この確認が、物件価格や利回りを見る前の出発点となります。