COLUMN2026.08.27

【世界の不動産事情・第3回】

【世界の不動産事情・第3回】

カナダ・オーストラリアの購入規制から考える「住宅は誰のためのものか」

住宅価格の上昇や供給不足が深刻化すると、「外国人や海外資本による住宅取得を制限すべきではないか」という議論が起こります。

実際、カナダとオーストラリアでは、外国人・非居住者等による住宅取得を制限する制度が導入されています。しかし、これを単純に「外国人は家を買えない」と理解するのは正確ではありません。

対象となる人、住宅の種類、所在地、購入目的によって取扱いが異なり、新築住宅や開発目的の取得を認める制度もあります。

本稿では、2026年7月25日時点の公的資料に基づき、カナダとオーストラリアの制度を整理し、日本との違いを確認します。

1.住宅取得規制は、外国資本そのものを否定する制度ではない

カナダとオーストラリアの制度に共通するのは、外国資本を一律に排除するのではなく、限られた既存住宅を国内居住者のために確保するという政策目的です。

カナダ政府は、外国資金による住宅取得が主要都市の住宅負担問題への懸念を高めているとして、非カナダ人による一定の住宅取得を禁止しました。オーストラリア政府も、外国投資を既存住宅ではなく、新築住宅や住宅供給を増やす開発へ誘導する方針を明確にしています。

したがって、両国の規制は「外国人に不動産を所有させない」という単純な制度ではありません。

問題となっているのは主に、住宅供給が不足するなかで、すでに存在する住宅を誰が取得できるかという点です。

2.カナダでは、非カナダ人による一定の住宅取得を禁止

カナダでは、2023年1月1日に「非カナダ人による住宅用不動産購入禁止法」が施行されました。当初は2年間の時限措置でしたが、その後延長され、禁止措置は2027年1月1日まで継続することとされています。

法律上の「非カナダ人」には、原則として次の者が含まれます。

カナダ国民でも永住者でもない個人、外国法に基づいて設立された法人、一定の非カナダ人に支配されているカナダ法人等です。一方、一定の要件を満たす一時滞在者、難民保護を受ける者、カナダ国民や永住者である配偶者等と共同購入する者などには例外があります。

ここで重要なのは、この法律がカナダ国内のすべての土地・建物を対象としているわけではないことです。

3.カナダの禁止対象は「都市部の一定の住宅」に限定される

カナダの連邦規制は、原則として国勢調査大都市圏または国勢調査都市圏に所在する住宅を対象とします。これらの区域外にある住宅については、連邦法上の購入禁止の対象外です。

対象となる「住宅用不動産」は、主に次のものです。

3戸以下の住戸を含む戸建住宅等 セミデタッチドハウスや連棟住宅 コンドミニアムの区分住戸

一方、4戸以上の住戸を含む建物は、同法上の住宅用不動産の定義には原則として含まれません。また、2023年3月の規則改正により、空き地や真正な開発・再開発を目的とする取得にも例外が設けられました。

つまり、非カナダ人であっても、都市圏外の住宅、一定の共同住宅、空き地、開発目的の不動産等は取得できる場合があります。

「外国人はカナダの不動産を一切買えない」という説明は誤りです。

4.カナダでは違反者だけでなく、取引を助けた者も処罰対象になり得る

非カナダ人が禁止対象の住宅を購入した場合、違反者には最高1万カナダドルの罰金が科される可能性があります。

また、購入が禁止されていることを知りながら取引を助言・誘導・援助した者も、処罰対象となる場合があります。裁判所は、違反して取得された住宅の売却を命じることもできます。

したがって、買主だけでなく、不動産会社、法律専門家、融資関係者などにも、買主の法的地位と対象物件の確認が求められます。

5.オーストラリアは「既存住宅」と「新規供給」を明確に分けている

オーストラリアでは、外国投資家が住宅用不動産を取得する場合、原則として価格にかかわらず、取得前にオーストラリア税務局への申請・通知が必要です。

同国の制度の特徴は、外国投資を禁止するだけではなく、新しい住宅供給へ誘導する設計にあります。

オーストラリア政府は、外国投資が新築住宅の建設、建設雇用、住宅ストックの増加につながることを重視しています。そのため、新築または一定の未入居住宅、住宅開発を目的とする土地については、所定の審査や条件のもとで取得が認められます。

6.既存住宅の購入禁止は2029年6月30日まで

オーストラリアでは、2025年4月1日から、外国人投資家による既存住宅の購入が原則として禁止されました。

当初は2027年3月31日までの措置として導入されましたが、2026年度の政策変更により2年3か月延長され、2026年7月時点では2029年6月30日まで継続する方針となっています。対象には、一時滞在者や外国資本に支配された法人も含まれます。

ただし、ここでも全面禁止ではありません。

住宅供給を実質的に増加させる再開発、商業規模で住宅を供給する事業などには、限定的な例外があります。個別案件は、外国投資法制と国益審査に基づいて判断されます。

7.新築住宅と住宅開発用地は取得できる場合がある

オーストラリアでは、外国投資家が新築住宅または一定の「新築に近い住宅」を取得することは、原則として禁止されていません。

また、住宅開発を目的として更地を購入することも可能ですが、一般に、取得後4年以内に建設を完了し、建設が完了するまで土地を売却しないことなどの条件が付されます。

さらに、外国人所有の住宅が1年間のうち183日を超えて居住に使用されず、かつ実際に賃貸募集もされていない場合には、年間空室料が課されることがあります。外国資本を受け入れる一方で、取得した住宅を空室のまま放置させない仕組みです。

オーストラリアの制度は、外国資本を「既存住宅の取得」から「住宅供給の増加」へ振り向けることを目的としています。

8.カナダとオーストラリアは、似ているようで制度設計が異なる

両国とも住宅負担問題を背景に外国人等の取得を制限していますが、規制方法は異なります。

カナダは、都市圏にある3戸以下の住宅や区分所有住宅を中心に、非カナダ人の購入を制限しています。都市圏外の住宅、4戸以上の共同住宅、開発目的の取得などには適用されない場合があります。

オーストラリアは、所在地よりも「既存住宅か、新規供給につながる住宅か」を重視しています。既存住宅の取得を原則禁止する一方、新築住宅や住宅開発用地への外国投資は受け入れています。

この違いから分かるのは、外国人購入規制には一つの共通モデルがあるわけではないということです。

各国は、住宅事情、移民政策、都市構造、住宅供給能力に応じて制度を設計しています。

9.外国人購入規制だけで住宅問題は解決するのか

購入規制を導入したからといって、住宅価格や家賃が必ず下がるとは限りません。

外国人需要を抑制しても、建設用地の不足、許認可の遅れ、建築費上昇、人口増加、低い住宅供給量といった構造的な問題が残れば、住宅不足は解消しません。

OECDはカナダの住宅負担問題について、2010年代後半以降、住宅需要の増加に対して供給が十分に対応しなかったことを主要因として挙げています。移民や非永住者の増加は近年の需要を強めた要素ですが、問題の根底には長期的な供給不足があると整理しています。

したがって、外国人購入規制は住宅政策の一手段ではあっても、それだけで住宅供給、価格、賃料の問題を解決する制度ではありません。

10.日本では外国人も原則として不動産を所有できる

日本では、現行法上、外国人は国籍にかかわらず、原則として国内の不動産を所有できます。2025年6月の政府答弁書でも、この原則が明示されています。

ただし、完全に手続きがないわけではありません。

外国為替及び外国貿易法上の「非居住者」が日本国内の不動産または不動産に関する権利を取得した場合、一定の例外を除き、取得後20日以内に財務大臣へ事後報告する必要があります。報告は日本銀行を経由して行われます。

また、日本政府は2026年から、外国人による土地取得の実態把握や今後のルールについて検討を進めています。ただし、2026年7月時点で、カナダやオーストラリアと同様の一般住宅に対する全国的な購入禁止制度が施行されたわけではありません。

まとめ

外国人による住宅取得規制は、世界的に一律に進んでいるわけではありません。

カナダでは、都市圏の一定の住宅について非カナダ人の取得を制限しています。オーストラリアでは、外国投資家による既存住宅の取得を原則禁止する一方、新築住宅や住宅供給を増やす開発への投資を受け入れています。

両国の制度から見えるのは、外国資本を全面的に排除するという考え方ではありません。

限られた既存住宅は国内居住者へ、新たな住宅を生み出す資金は海外からも受け入れる。

この線引きを、住宅政策としてどのように設計するかが問われています。

日本で同様の議論を行う場合も、「外国人だから規制する」という単純な考え方だけでは不十分です。安全保障、住宅負担、投機抑制、住宅供給、国際投資、財産権など、規制の目的を明確に分けて検討する必要があります。

不動産は投資商品であると同時に、人が生活するための基盤です。

世界各国の住宅取得規制は、まさにこの二つの性質をどのように調整するかという問題なのです。